貴と米
Think Globally, Act Locally

貴と米
Think Globally, Act Locally

山口県産山田錦と
ドメーヌ貴

永山は、創業当時から幾らかの田を有し食用兼用米を作っていました。2002年 山口が県の事業として山田錦の栽培に乗り出した時、永山も永谷正治先生指導の元、山田錦の稲作に取り組みました。そのお米でできたお酒は年に一度「芳山」というイベントで地域の方々に振舞われ、今のドメーヌ貴へ引き継がれていきます。

ワイナリーを訪ねて
酒造りのフィロソフィー

わたしが酒米作りに思いを強くしたのは、2007年から数回に渡りヨーロッパのワイナリーを訪れた経験からです。同じ酒類を醸造する者として、彼らがまったく違うフィロソフィーを持っていた事に驚きました。日本で酒蔵を訪れると、多くは醸造の話に時間が費やされます。その時の温度や時間であったり麹の振り方であったりです。しかしワイナリーで働く彼らから醸造について多くは話されず、熱く語られるのはいつもぶどうやそのぶどうを作る土についてでした。一区画隣の土がぶどうにどのような影響を与えるのか、この土をこれからどう育ててゆくのか、そして自分たちが将来の環境のために何をすべきかを彼らはいつも考えていました。後に知った事は、(実はボルドー大学などで先進技術を学びながら)醸造法について多くを語らない理由には、自分たちが創造しているものは工業製品ではなく土地から授けられた農産物の延長にあるという深い哲学に立つものでした。わたしは彼らとの交流を通して、少しづつ地元二俣瀬の田にこれまでとは違う思いを持つようになりました。

サステナブル、そして
土地のテロワールを求めて

稲作も17年目を迎えた2019年、永山本家酒造場は農業法人を立ち上げました。酒造りの中心となす酒米を自ら育てるという決意です。美味しいお酒を世に送るという蔵本来の使命にこの決断がどのように影響するのか、すぐに測ることはできません。しかし1つ理があるとすれば、それは気付いていながらも目を背けていたコトへ解決の一歩を踏み出せるという事です。稲作の過程ではいやおう無く6%のくず米と13%の整粒に満たない玄米を目にし、さらに精米では量り知れない米ぬかが産まれます。また視点を移せば、高齢化によって稲作を継続できない、また食用では採算の合わない田がたくさんあることも眼下の課題です。サステナブルと6次産業。土地への深い思いと理解がなければ成就することはありません。年間250万の人がブルゴーニュを訪れるといいます。広大なぶどう畑がどこまでも続く美しい景観。ワイナリーで働く人々が何度も口にする「テロワール」という言葉。彼らの彼地へのリスペクトは、そのまま観光者の、そして世界中の人々のブルゴーニュへのリスペクトへと繋がります。もし永山本家酒造場に、酒造りから得ることのできる幸せがあるとすれば、それは企業体への尊敬ではなく、地域の人々とともに実現できる幸福の総量で測りたいと思うのです。創業から継がれてきた寄進の精神、そのようなものがあるとすれば 、わたしはそんな形で表したいと思います。